2013年3月8日金曜日

人間と動物 : 電気グルーヴ

アラサー以上の世代なら分かると思うけど、CDが普及する前、アルバムはアナログ盤でリリースされていた(もちろん今も一部の作品はヴァイナルカットされている)。片面約23分、両面で約46分。リスナーは座して音楽を聴き、外で聴く場合は46分カセットテープにダビングし、ウォークマンやカーステレオ、ラジカセを活用した。今のように音楽が大量消費される時代とは違い、音楽に真摯に向き合う人が多かったと思う。…などと電気グルーヴの新譜を聴いて思った。


人間と動物 : 電気グルーヴ

全曲歌モノ、収録時間約50分、BPM 125前後、既発曲の「Upside Down」、「SHAMEFUL」、「Missing Beatz」を収録するという制約のもと作られた新作。正直言って全く期待していなかったんですが、一聴して思った感想が「すごいな」と。まさかここまで完成度が高かったとは。80年代ニューウェーヴとエレクトリックボディミュージックを基礎として、現代モードへ昇華させたような作品です。衝撃度で言えば「VOXXX」に分があるものの、完成度で言えばこれまでで最高レベルだと思います。歌詞はほとんど意味を成さなく、語感を大切にしている意味でも「VOXXX」に通じるものがあります。また、ミックスにはまりんが参加していることもあって、極めて高品位な音質で研ぎ澄まされまくっています。

前述のシングル曲は個別で聴くと「まとまり感」がないんですが、全編ほぼシームレス且つアルバムに最適化されており、曲順も選びに選び抜かれていると思えます。「Missing Beatz」から「SHAMEFUL」への繋ぎは何の違和感もなく、最後までスムーズに流れていく。これまでの作品の中で一番アシッド度合いが高く、「P」の中盤ではアシッド濃度が最高潮に。犬に噛まれて喉から血を出して死んでしまった、演歌歌手 瀧勝の「人生(Hardfloor Remix)」よりも、ある意味アシッド濃度が高い。

続く「Slow Motion」では、80年代をルーツに持つ二人の面目躍如というか、切なさとニューウェーヴ感覚に満ちた秀曲。「Prof. Radio」はまさしく80年代ハイエナジーを土台にした、アラフォー世代を直撃するアナログ感丸出しなトラック。幽玄でスペイシーな感覚を持ち、彼らにしか作れないような「Oyster(私は牡蠣になりたい)」を経て「電気グルーヴのSteppin' Stone」で締まる。

「Steppin' Stone」は電気グルーヴにしては珍しいカバー曲。60年代にビートルズの対抗馬としてアメリカで結成されたアイドルバンド「モンキーズ」の楽曲で、「Steppin' Stone」はThe Sex Pistolsのカバーの方が有名かもしれない。80年頃には「ザ・モンキーズ・ショー」という番組が日本で再放送されたこともあり、彼らがリバイバルヒットしたのを覚えています。一番有名なのが「Daydream Believer」で、忌野清志郎がタイマーズ時代の89年にカバーをしています。そう、かつて電気グルーヴは子門’z名義でRCサクセションの名曲「トランジスタ・ラジオ」(過去レビュー)をカバーしており、ここに関連性を感じる。ベースにSly Mongooseの笹沼位吉を迎えている辺りに滅茶苦茶センスとグルーヴ感を覚えます。

わずか約50分という収録時間に不安を感じていたんですが、この適度な長さがリスナーに飢餓感や中毒性を与える、という二人の目論見は見事に成功していました。なお、初回限定盤にはWIRE12(過去の記事)出演時のライヴDVDが付いているのは個人的にかなり嬉しい。

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