2013年10月31日木曜日

Tomorrow's Harvest : Boards Of Canada


Tomorrow's Harvest : Boards Of Canada

Boards Of Canadaが実に8年ぶりの新作をリリースした。その長い歳月はリスナーの期待値を高めるのに充分な時間だったはずだ。にも関わらず、彼らは謎に満ちたプロモーション戦略を次々に打ち出し、リスナーの飢餓感を更に煽り続けた。

まず今年4/20に行われた世界的イベントRecord Store Dayで、BOCの新作12インチシングルが世界各地のレコード店でひっそりと売られた。ロンドン、ニューヨーク、東京のレコード棚に陳列されたそれらには「------/------/------/XXXXXX/------/------」といった形で、XXXXXXのところに6ケタの数字が記載されていた。更にはYouTube、ラジオ、ファンサイト、ケーブルテレビといった各メディアでも、ランダムな6ケタ数字が次々と発見された(XXXXXXの場所は全て異なっている)。全部で36ケタの数字を或るサイトにパスワードとして入力すると、新作の発売日とタイトルが現われる仕掛けだ。

更には彼らのtwitterアカウントから「May 22nd 24:00 @ 1-23-10 JinnanShibuya-ku Tokyo」という情報がアナウンスされ、渋谷のスクランブル交差点で何がしかの手がかりを見つけようと、多くの人が深夜にもかかわらず集まった(僕は行かなかったけど)。そこで披露されたのが新作のPVだったというわけだ。かくも手の込んだバイラルマーケティングを通じて、僕を含めたリスナー達は晴れて新作を手にし、長いこと抱いていた期待を裏切られることなく陶酔し堕ちていく。

この作品は彼らが築き上げたフォーマットを逸脱することなく、しかも更に深遠なところまで到達しているようだ。前作「The Campfire Headphase」(過去レビュー)のような湖に漂う霧のような浮遊感、前々作「Geogaddi」(過去レビュー)にみられた目くるめく万華鏡の如きサイケデリック感は控えめだ。それと引き換えに提示されているのは「陰鬱になりきれない不安感」であり、「光に満ちていない煙った希望」だ。非常に奇妙なことなんだけど、不安を感じながら快楽性に満ちている、仄暗いのに仄明るい、という心象風景が浮かんでは消えていく。彼らの新作はリスナーの想像力を激しく喚起する、映像的な野心作といえるものだった。ただし喚起された映像は決して共時性を持たないだろう。この作品の謎解きはリスナーの中で延々と繰り返されるだろうけど、正しい解が得られることはないだろう。

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