2013年2月2日土曜日

Praise : Inner City


Praise : Inner City

このアルバムがリリースされた90年代初頭になると、それまで単に「ハウス」と呼ばれた音楽は物凄い勢いで細分化していった。当初「ハウス」と呼ばれていたジャンルは「シカゴハウス」または「ガレージハウス」と呼ばれるようになり、シンセやTB-303を多用したハウスは「アシッドハウス」、グルーヴを活かした黒めのハウスを「ディープハウス」などと呼ばれるようになる。

UKで隆盛を極めていたセカンド・サマー・オブ・ラブは失速し始めていたが、808 StateやThe Prodigy、Orbital等の登場により「ハードコア/レイヴ」というジャンルが認識され始めてきた。それらのジャンルを「テクノ」と決定づけたのはデトロイトから流れてきた音楽に他ならない。この頃になるとクラブミュージックはかつてないほどのスピードで進化を遂げ、ドラムンベースの基礎であるジャングルや、ロッテルダムにおいて「ハードコア/レイヴ」を高速にしたガバが登場し始めた。

ロックの分野ではUSオルタネイティヴが凄まじい嵐を呼び起こしており、同時多発的にヒップホップの勢力も強まっていった。そんな中でメジャーシーンではヒップホップベースのハウスユニット「C+C Music Factory」が大成功を収めていた。

日本では電気グルーヴがメジャーデビューを果たし、前述のC+C Music Factory初来日公演の前座を務めるなどした。ただし、初期の彼らはやはりヒップホップ色が強く、「テクノ」というタームが一般化されていなかったこともあり、テクノユニットとしては認識されていなかったように思う。バブル経済が崩壊し始め、それまでのゴージャスなディスコ「マハラジャ」や「キング&クイーン」、「エリア」等は衰退し、それらに取って代わり巨大ディスコ「ジュリアナ東京」が成功を収めていた。

このジュリアナ東京を後押ししていたのがレイヴ/ハードコアの亜流とも言えるような、ベルギーのT99のように分かりやすいレイヴミュージックだったのだ。どれだけ分かりやすいのか、エピソードを一つ披露すると……

当時大学生だった僕は塾でアルバイトをしていた。生徒(JK)が「先生は最近の音楽で何が好き?」と尋ねてきたので「電気グルーヴっていうのが最近デビューしたので気に入ってるよ」と答えた。そうすると彼女は「え~!あんな変なの大嫌い!私はTMネットワークとかT99みたいなカッコいいテクノとかレイヴが好き!」と言ったのだ。つまり、レイヴはJKにも分かりやすい音楽だったのだ(あれ…この話、前にも書いたことあった)。だからこそジュリアナ東京はスタートダッシュが良かったのだ。もちろん、ジュリアナ後期になると、音楽性よりもその風俗性に注目が集まることになる。

Inner Cityの「Praise」とは全く関係のない話になってしまったけど、このアルバムの内容は当時の音楽シーンの影響を相当に受けている。いや、もしくはシーンに相当の影響を与えている。収録されているトラック「Praise」(賛美)や「Hallelujah」(主をほめたたえよ)、「One Nation」(これを指しているに決まってる)といった曲名にはアフロアメリカンのソウルや黒人霊歌への意識が見て取れる。もちろんParis Greyのボーカルはゴスペル的要素に満ちている。ここでは彼らが開拓したディープハウスを基礎としているが、当時のレイヴ/ハードコアからもかなりの影響を受けている。この双方向性こそ、当時の音楽シーンを物語っているのだ。

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