2012年7月19日木曜日

大天使のように : ヤプーズ


大天使のように : ヤプーズ

88年といえば日本は空前のバブル景気に湧いていた。その頃の僕は大学に入ったばかりで、周りには親の金で車を買ってもらったり、という有り得ない奴らがゴロゴロしていた。日本はまだまだ豊かになりますよ~と全国民が美酒に酔いしれていた頃だったと思う。そんな中、戸川純ちゃんは多忙な芸能活動を送っていた。ヤプーズやゲルニカといったバンド活動以外に女優業として映画、タレントとしてテレビなど数多くのメディアに露出。疲労がたたって椎間板ヘルニアを患い、成功率が低い大手術に挑むことになる。

そんな多忙の中に制作されたことも作用しているんだろう、戸川純をして「私の中でワーストワン」と言わしめる問題作がリリースされた。後のボックスセットにすら入れたくなかった、無かった事にしたかった、と言っているぐらいだから、完璧主義者の純ちゃんにしてみれば鬼っ子みたいなアルバムなんだろう。

今聴き返して見ると、それほど悪くない。それでも統一感というかコンセプト感はやはり希薄で、やっつけ仕事みたいな感覚はあると思う。楽曲のクオリティはそれなりに高いんだけど、全ての歌詞を純ちゃんが手がけているわけではないので、独特の世界観を味わうには物足りない。詩の世界で言えば激情をひたすら表現している「憤怒の河」、ねっとりとしたエロスの世界を描ききる「棒状の罪」、チェルノブイリ原発事故を歌った「去る四月の二十六日」、山中で縋る女を描いた「大天使のように」辺りで本領発揮。バンド陣は相変わらず鉄板なんですが、ニューウェーヴ出身ということもあって特にドラムのグルーヴ感が物足りないのが残念。

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