2012年3月14日水曜日

玉姫様 : 戸川純

今回は日本を代表する女流パンクロッカー 戸川純について。


玉姫様 : 戸川純

当ブログのプロフィール欄にも書いてありますが、80年代初頭~中盤を中学生~高校生として過ごしました。当時はサブカルチャーやオタクといった単語は存在せず、情報入手経路も雑誌やラジオなど極めて限られていた時代。情報が瞬時で手に入る今では、メインカルチャーとカウンターカルチャーの境目が分かりやすいようになっていますが、情報伝達速度が遅いその昔ではその境目が曖昧だったんじゃないかな。だからこそ、多くの人が戸川純を「傍流」だなんてことを意識していなかったように思います。その証拠に、僕の周りは好んで彼女の音楽を聴いていたもの(勿論たまたまだったのかも知れない)。

いずれにしても彼女が登場した時にインパクトは強烈だった。まずは製品化されたばかりのTOTOウォシュレットのCMに登場し、キュートながら儚げな外見を披露した。お尻を水で洗うという概念は今でこそ当たり前になっているが、当時としては画期的とも言える未知の技術分野だった。そこに彼女がテレビに登場し「おしりだって洗ってほしい」とアピールした時、僕らは彼女こそ新世代のアイドルだと確信したもんだ。

その頃、夢中になっていた宝島やビックリハウスといった雑誌から、彼女がゲルニカというユニットを組んでいることを知った。更には1stアルバム「改造への躍動」が細野晴臣主宰のYENレーベルからリリースされ、細野プロデュースだという事実が俄然僕の興味をひいた。その後84年には彼女が同YENレーベルからソロアルバムをリリースしたことを振り返ると、カウンターカルチャーでもなんでもなく、大きなうねりだったと確信できる。

さて、日本のロックを占う上でのマイルストーンとなる本作は、細野晴臣が関与していることから、彼女の他作品とは異なりテクノ的色彩が濃い。彼岸から聴こえてくるようなボーカルと足踏みオルガンがサイケデリックな雰囲気を醸し出す「怒涛の恋愛」、ミニマルなドラムが危ういボーカルを支えるアンデス民謡「諦念プシガンガ」、サエキけんぞう率いるハルメンズの楽曲をカバーした、アルバムの中で最もパンキッシュな「昆虫軍」、合唱教本「コールユーブンゲン」をアヴァンギャルドに解釈した「憂悶の戯画」、日本印度化計画よりもはるか前にインドを歌い上げた「隣の印度人」、「神秘 神秘 月に一度 神秘 神秘 神秘の現象」と女性の生理を歌ったタイトル曲「玉姫様」、無垢で幼いボーカルを披露するワルツ「森の人々」、ゲルニカの上野耕路が在籍していた8 1/2のカバー「踊れない」、パッヘルベルのカノンに歌詞をつけた「蛹化の女」など一切の捨て曲なし。アルバムの随所に「虫」や「森」のキーワードを散りばめ、唯一無二の世界観を構築していることにも成功している。

これ以降の彼女の足跡をたどると、その後の女性アーティスト達に絶大なる影響を与えたのは一目瞭然だ。控えめに見ても、彼女はこの分野のオリジネーターであり、表現者として彼女を越えているアーティストは未だ現れていない。

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