2014年12月17日水曜日

Syro : Aphex Twin



2014年 音楽シーン最大級の話題として挙げられるのが、Aphex Twin が「drukqs 」以来13年ぶりに新作をリリースしたこと。あれから13年も経ったことに驚いているんですが、その間に Aphex Twin こと Richard D.James が二児の父親になっていたことにも驚愕。変人奇人の変態テクノ野郎として名を馳せた彼も、普通に恋に落ちて結婚して父親になったんだなあ、と変な感慨にふけてしまった。

さて本作がリリースされるにあたっては、突如としてロンドン上空に AphexTwin ロゴのある飛行船が浮かび、世界中の街中や裏道そこかしこにステッカーやポスターが貼られるというゲリラ的ポロモーションが展開されました。こういった匿名的な戦略で煽りまくったのは Aphex Twin らしかったんですが、13年のブランクをどのような音で埋めるのか、個人的に不安であったのも事実。そして一聴して思ったのが「音がいい」こと。

初期のアシッドハードコアな時期、「Selected Ambient Works 85-92」(過去レビュー )に見られる純朴でドリーミーなデビュー時期、アイロニーに満ちた「I Care Because You Do」(過去レビュー )以降と、音質は常に良くなかったんですが、本作では霧が晴れて澄み渡った山頂のように音がクリアになっています。当然、最新機材を駆使して創られた作品に違いないんですが、作風にも適当さが全く見当たらない。逆を言えば、相当入念に作りこんだ意思と統一感が感じられます。

はからずも「I Care Because You Do」以降の悪意やシニカルさは薄れ、「Selected Ambient Works 85-92」時期の純朴性や良質なユーモアが復活している。時代を切り開いていった時期を期待する人は肩透かしを食らうだろうけど、僕にしてみりゃ猿的リピート必須な快楽物質の塊。アナログ感覚たっぷりでドリーミーなシンセ音と旋律、ドリルなひねりがまぶされ最新型音質にアップデートされた緻密ビート、アシッドな気持ちがぎっちぎちに詰め込まれたベースライン。どこを切っても Aphex Twin の音、しかも最新型。世界の各地で交わされる本作の議論を、にんまりとほくそ笑みながら横目で見ている Richard D.Jamesの顔が浮かんでくる作品です。

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