2012年4月19日木曜日

好き好き大好き : 戸川純

戸川純といえば何かと「玉姫様」(過去レビュー)が挙げられますが、何を隠そうこの作品も極めて評価が高い。この作品は恋愛がコンセプトとなっており、いかにもアイドル然とした純ちゃんと思いきや、そんな簡単に一筋縄にいくような相手ではない。


好き好き大好き : 戸川純

85年にリリースされた、個人名義では2ndとなるアルバム。この頃になると彼女のスタイルが確立された感があって、もはや余裕めいたものがあります。この作品と比較して「玉姫様」を振り返ると、気負い過ぎているというか、奇を衒った部分があったのも否めないと思う(もちろん名作には違いない)。この作品では各曲のクオリティ、というか各曲における純ちゃんのクオリティがいちいち高すぎる。一切の捨て曲なし。曲に応じてここまで声を変化させ表現するボーカリストを、彼女以外他に知りません。取りあえず、各曲の解説めいたものを書いてみる。

【ヘリクツBOY】

「パワーポップここに極まれり」的な、キッチュなリードトラック。後にギミギミギミックスで組むことになるブラボー小松が作曲を手がけ、作詞は妹の故・戸川京子と共作。確信犯的にアイドルを意識した悪のりトラック。とは言っても「あなたのこと好きだったのに/理屈っぽいんだもん/私帰る」という台詞がいかにも純ちゃん的。

【好き好き大好き】

有名な「愛しているって言わなきゃ殺す」という偏執狂的フレーズが、この頃の純ちゃんを全て物語る。サビ部分で聴こえてくる狂気のファルセットボイスが、聴き手のハートを狂人的握力でわしづかみ。New Orderのようなニューウェーヴサウンドも素晴らしい。

【エンジェル・ベイビー】

60年オールディーズであるRosie & The Originalsの「Angel Baby」をカバー。微妙に変調されたチューニングの、黒板をひっかくようなギター。豆腐屋のラッパのようなへたれサキソフォン。超絶的にどブロークンな英語で、超不安定に歌いあげるボーカル。それぞれの調子外れなパートが独特のグルーヴを生み出している。この曲を一人で聴いている姿を、決して誰にも目撃されたくない。

【さよならをおしえて】

フレンチポップ歌手のフランソワーズ・アルディ作品「Comment te dire adieu(さよならを教えて)」をカバー。中島みゆきのようなボーカルスタイルを導入し、死後でも愛する人をどこまでも追い続ける女の姿・情念を歌い上げる。ああ、これはもう聴いてもらうのが一番早い。埋め込めないのでこちらのPVを見てください。椎名林檎は「本能」のPVでオマージュ捧げているのかしら。アナログ盤はこの曲でA面を締め括る。

【図形の恋】

「さよならをおしえて」と同じボーカリストとは思えないような変わりよう。タイトル通りの幾何学的テクノポップな演奏に、女子小学生のような無垢なボーカルが乗る。おどろおどろしい曲でA面が終わって、この曲でB面が始まるなんて狙いは的中してるよね。

【オーロラB】

イタリアのニューウェーヴバンドであるKrismaの「Aurora B.」をカバー。これはもうオリジナルを超越しちゃっているというか、ここまで歌える人って純ちゃん以外にいないだろう?「Ho ho -」と麗しのファルセットボイスが胸を切なく締め付ける。いや、胸を苦しく締め上げる。正気と狂気の境界線を行き来する純ちゃんが素晴らしすぎる。狂おしくも美しい超名曲。

【恋のコリーダ】

「レインボー戦隊ロビン」の副主題歌をカバー(原曲はこちら→Youtube : 1:32から)。と言っても、さすがの僕だって、再放送でもレインボー戦隊ロビンなんて見たこともない。昭和の雰囲気をぷんぷん醸し出す曲だけを引用し、詞は「愛のコリーダ」をモチーフにした猟奇的内容。愛する人をハンマーで撲殺したことに気づく朝は美しすぎた。これも超名曲。

【遅咲きガール】

再び悪のりパワーポップで最後を締め括る。妄想とエロスに満ちた女子を、キッチュなボーカルスタイルで表現。こちらも故・戸川京子が作詞、ブラボー小松が作曲を手がけ、シングルカットもされています。



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